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◇ 宮口幸治「ケーキの切れない非行少年たち」

最近の新書ですねえ、という感想。

家人が持っていたので借りて読んだんだが、……うーん、面白い内容ではあったけど、
わたしは最近の新書自体に不満があるのよね。
といって新書を数多く読んでいるかというとほぼ読んでないのだが。

昔の新書は――こういうと語弊があるが、――けっこう良質だったんです。
専門家が、その専門分野について一般人向けに簡単に書いてくれている。
概説書が多く、特にわたしが読む歴史分野においては、
テーマをしぼって中くらいの辺りまでちょうどよく深掘りしてくれる。

その頃の主な新書は、岩波、中公、講談社あたりかなあ。
わたしのお気に入りは中公で、「字の本は文庫で買う」という掟にもかかわらず
――まあ文庫も新書も似たようなもんだが――なんぼかは買っている。
といっても蔵書の新書合わせて50冊もないけど。
わたしは社会人以降、図書館派になったから、22歳過ぎくらいまでしか
本を買ってないのよね。

その後、いつだったか新書が雨後の筍のように増えた時期があった。
AIさんに訊いてみると2000年前後らしい。あれよという間に増えて、
数打ちゃ当たる時代に入った。

新書は安く作れるし(判型も表紙も同じなのはほんと低コスト)、
テーマも設定しやすいし、そこまで原稿の分量も必要としない。
出す方にも書く方にも読む方にも三方良し。ではあるのだが、
安易に出せるものは内容も簡便に流れがち。そういうものだと思う。

早い話、内容が薄いのよね。前からあった新書レーベルでも元々講談社現代新書は
内容が薄かったが(内容の薄さをステキな表紙でカバーしていた)、
その後出た新書レーベルは総じて薄いです。もちろん密な新書もあるけれど。
ちょっとした内容をキャッチーなタイトルをつけて、どんどん出して当たるのを待つ。
そういう姿勢を感じる。

今回のこの本もそういう意味では内容が薄いと感じました。

内容は「あまり認識されていないが、非行少年には認知力が低い者が驚くほど多い」
という一点のみ。
これを全体で180ページの150ページくらいまでずーっと書いている。
まあ引かれた実例は面白いよ?「ケーキを3人で分けなさい」という命題を与えられて
彼らが書いた図の再現図なんかは衝撃的だし、
「Rey複雑図形の模写」という図なんかは、絶句というレベルで衝撃だった。

「実は引き算が出来ていない」
「見る、聞くから認識できる能力が驚くほど低い」
「想像が出来ない」

こういう内容も興味深いことは興味深い。100から7を引くことが出来ないとか、
そこからさらに7を引かせるとお手上げだとか、いや、まさかそんなことが……
という実例がずっと続く。軽度知的障害もかなりの数含まれるとのこと。

――この本ではなくて別件だが、最近「等分」という言葉の意味がわかってない人が
増えているというのをネット上で読んだ。「等分」がわからなければ、3等分が、
……絶対出来ないとは言わないが、言葉は認識を促すものだからして、
3人いたら公平に分ける、という意識は育ちにくいかもしれないなあ。

でもこの「実例」だけで150頁も読んでくると、少々飽きるのよね。
そろそろ解決篇に移って欲しいじゃない?じゃあこの状況を打開する方法が
どのくらい進んでいるのか、教えて欲しいわけじゃないですか。

でもそこの部分が全然弱い。解決法を書いた7章は30ページくらいあるが、
最初の部分で、彼らが変わるきっかけを書いてあって、(略して書くが)

・家族のありがたみを知った時
・被害者の視点に立てた時
・将来の目標が決まった時
・信頼できる人に出会った時
以下6点くらい続くわけだが、

……いやいや、これって「こういうことに気づけるスタートラインに立てない少年たち」
の問題っていう本じゃなかったですか。自信とか客観性とかの前に、
その認識能力の低さ、短期記憶の少なさをどうやって鍛えるのかというのが
大事なんでしょう?

この部分に関しての内容がすごく少ないのよねー。
具体的な対応策としては10ページ程度。自分の考えたトレーニング方法があるから、
そちらを参照してね、という宣伝でしかない。それでは読み手の知的好奇心は
満足出来ないじゃないですか。

こういうところが薄いなあと思う点。

なので、読後感はそれほど良くなかった。後半はだんだん不満がつのったわけだから。
タイトルで期待した内容はしっかり書いてあったが、そこからの肉付けがなかった。

これってこの本に対するというより、むしろ新書に対する不満。
もう少し内容をしっかり盛り込んで欲しい。

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